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風花 川上弘美
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    風花 (集英社文庫 か)


    主人公:のゆりの夫婦に起こった離婚問題を通して夫婦とは何か、ということを考えさせられる小説であった。

    ネタバレあり





    物語のラスト、のゆり、卓哉は二人で泣いている。
    その後、のゆりはふと泣き止み歩き出す。
    赤信号になっても渡ってしまい、
    その光景を卓哉は驚きの表情で見守るのであった。

    福島旅行からの帰宅時、卓哉はのゆりの「別れよう、私たち。」
    という発言により確固たる、[離婚する]という意思を受け取った。
    その時、卓哉は離婚に応じることを決意し、
    その瞬間、結婚前の2人での楽しかったこと、
    結婚後の2人の思い出、自身の浮気騒動によって
    のゆりに苦労をかけたこと、様々なことが脳裏に浮かび
    感情の収集がつかなくなったのだろう。
    人は感情が溢れると、涙が溢れてくるものだ。
    泣いている卓哉を見てのゆりはかっこ悪いと思う。
    しかし、卓哉の涙は決して女々しいものでない。
    色々な要素がないまぜになったものだろう。

    卓哉の涙をみてのゆりも泣く。
    しかし、のゆりの涙は卓哉の涙を受けてのものだ。
    自発的ではない。
    のゆりは今回自らの意思で離婚を決めた。
    気持ちはこれからの生活、未来に向かっているのだ。
    だからこそ、泣き止むのも早い。
    これまでは、周りに流され、惰性で生きて来た。
    これからは、のゆり自ら判断し行動をしていく。
    ラストは次の一文で終わっている。
    「卓哉はまるではじめてのものを見るように、のゆりの姿をじっとみているのだった。」

    ここでは(まるで)と綴られているが、卓哉は文字通り初めて、
    のゆりが自ら判断し行動する[赤信号を渡って行く]場面を見たのである。

    この、風花という小説。
    正直、途中まで感情移入ができず、どこかもどかしい感覚があった。
    つまらなくはない。
    いや、むしろ、先が気になり興味は引かれている。
    それなのに、この感じはなんだろう、という違和感があった。
    しかし、この違和感の原因は後半部分に入り分かった。

    理由は、主人公のゆりの意思を感じることができなかったからだった。
    意思もない。意見もない。そして、世の中に関心もない。あまつさえ、夫である卓哉にも関心がない。
    夫の浮気もタレコミがあって初めて気づく始末である。

    「死んだらおしまい。」
    のゆりは冒頭に真人と行った温泉でそのような文句を見たが、
    死ぬ気はないもんね。という感想をもらす。
    あくまで傍観者であり死ぬほどは悩んではいないのだから当然でもある。

    のゆりの傍観者意識はのゆりの叔父、真人も、
    そして卓哉も感じている。
    真人はのゆりに言う。
    「そこそこか。そこそこのずっと先のどんづまりまで行ってみないの?」

    卓哉には言われる。
    「魚みたいな目をしている」と。
    そして続ける。
    「僕のこと、怒りもしないで」と。

    さらには、のゆり自身がふと漏らす。
    「それより、どうしてわたしは、卓ちゃんと結婚したんだろう」
    「わたし、何も考えて、なかった。」

    卓哉は物語中、二人と浮気をしていた。
    それ自体には全く賛成もできない。
    が、卓哉の立場に立って見ると気持ちは分からなくもない。
    家に帰っても卓哉に対する関心もない、魚の目をした妻。
    家に帰っても、なんで一緒に住んでいるのだろう?
    と自らに聞く日々も多かったろう。
    そんな中、好いてくれる人が出てくればそちらになびく気持ちは理解できる。

    物語は進み、のゆりも考えることが多くなっていく。
    自らのこと、そして卓哉との関係、卓哉はなにを考えているか、
    また卓哉はどのような人間か。

    そして、後半では「卓哉と里美は別れている気がする。」と勘がはたらくようにもなった。
    これは卓哉に対する関心が高まっているからこそであろう。
    卓哉が火事でマンションを焼き出され、のゆりが卓哉を一夜泊めたことがある。
    その時、のゆりは思う。[結婚しなければもっとちゃんと好きになれたのに。]
    でも、私はそう思うのゆりに言いたい。
    「のゆりさん、結婚はゴールではないんだよ。結婚したからちゃんと好きになれなかった訳ではなく、
    結婚した時、のゆりは思考停止してしまったんだよ。
    卓ちゃんはずっとのゆりを待っていた。
    だから、のゆりが自分で考え始めた時、卓ちゃんはやり直したいと思ったんだよ。
    でも、のゆりはもう大丈夫。
    結婚すればあとは幸せが自動でくる訳でなく、そのあと努力も必要と知ったから。
    次の出会いはきっとうまくいくよ。」


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